『母の味』
私の実家は、商売をしていることもあって、母が料理に時間をかけることは、めったにありませんでした。子供が喜ぶ物は、誕生日、大晦日くらいにしか食べれませんでした。台所にずっといれなくて、よく、鍋を焦がしたり、同じものしか作れない母に、「お母さんは、料理が下手」なんて、みんなで言った事もあります。でも、なぜだか、母の作るおにぎりだけは、世界一おいしいんです。塩加減、にぎり具合、どうやったら、こんなにおいしくなるのかなって、大人になった今でも不思議です。もっと、不思議なのは、母が作る煮物って、すごくおいしいなって、今になって、つくづく思うことです。子供の頃は、当たり前のように食べていたのに、大人になってみると、毎日食べたくなるんです。この味が、我が家の味なんだって、改めて感じた時、すごく嬉しくなります。今は、母に味見してもらいながら、煮物を勉強中ですけど、もし、母がいなくなったときのことを考えると、しっかりと、覚えないとって、思います。こんなにおいしいもの、次の世代に教えたいって、考えるようになりました。母が、よく、「おばあちゃんの煮物はおいしかったけど、私も、しっかり教わらなかったから、今、すごく後悔してるんだよ。」って、よく言います。私も、そんな後悔は、絶対したくないから、今から、せっせと教えてもらうつもりです。一緒に台所に立てるのは、あと何年あるのか解らないけど、世間話しながら、いっしょに料理を作り、思い出と一緒にアルバムに残しておきたいです。
(maruさん) |