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美しいグラビアに紹介されている料理の中には、"ご飯のおかず"になっていても"酒の肴"ではない料理も多いものです。
"ご飯のおかず"と"酒の肴"はどこが違うのでしょうか。
"ご飯のおかず"として最適の場合は、ご飯の上にのせた「丼」になります。
焼鳥の食べ方には塩とタレがありますが、焼鳥丼の場合、味付けは塩でなく必ずタレになっています。
天丼も塩でなく天ツユがかかっています。
鰻はもちろん蒲焼です。
"酒の肴"としてはこたえられない鰻の白焼とわさびも、丼にすると美味しくありません。
濃厚なツユやタレなどの味付けが"ご飯のおかず"として適しているのです。
一方、"酒の肴"はお酒の味を損なうことのない薄味。これが基本です。
●「口中調味」と「ばっかり食い」
最近の若者は左手に茶碗を持って、ご飯、おかず、ご飯、味噌汁・・・といった順で食べる、いわゆる「稲妻食い」をせずに、会席料理を食べるように、おかずを一皿ずつ順に食べていき、最後にご飯にふりかけをかけて、もしくはお茶漬にして食べる「ばっかり食い」が多いようです。このような食べ方ではご飯をおかわりすることは考えられません。
どうしてそうなってしまったのでしょうか。
いくつかの理由が考えられますが、その一つは、前述したおかずの味付けなのです。
和食は塩分を摂り過ぎる食事だとか、そのため高血圧の患者が多いだとかの理由から、近年、塩分を少なくしてあっさりした薄味に変わっていったのです。
かつては塩からいのが普通だった梅干や塩鮭も今では甘塩があたりまえです。
味噌汁も、漬物も、干魚も、何もかもが塩分控え目です。おかずが薄味だから、ご飯の味でおかずの味を薄めながら食べる「口中調味」をしなくても、おかずだけを食べ続けられるわけです。
ご飯とおかずを交互に食べる「口中調味」の必要はないというわけです。
●さびしい弧食
また家族そろって夕食を食べることがなくなり、一人一人で食べる"孤食"が増えています。
子供たちは学校から帰るとすぐに習い事、続いて学習塾へ行き、夜遅く帰宅して、家族がとっくに食べ終わった食卓で、一人でご飯を食べるのです。
その時、おかずはすべて一人用の皿や小鉢にはいっています。
もし夕食が鍋だったとしても同様で、一人さびしく自分だけの冷めた小鍋を"チン"して食べることになります。昔は家族全員が同じ食卓を囲み、大皿に盛った料理をめいめいが小皿に必要な量だけ取りながら食べることが多かったわけです。
その場合、一つ一つのおかずを順に食べ終えていく「ばっかり食い」は起こらないのです。どうしても左手にごはん茶碗をもって、ご飯を食べながらおかずを食べることになるわけです。一人でテレビを見ながら食べていても、美味しくありません。
皆でワイワイと、サザエさん一家のようにして夕食を食べると、確実にもう一杯ご飯が進むのです。食べ足りないから食後にすぐポテトチップスなどのスナックを食べてしまうのでしょう。おかずがせっかく薄味で塩分を抑えたのに、一袋のポテトチップスには数グラムの塩分が・・・。そして、ポテトチップスが塩辛いので甘いコーラをグイグイと飲んでしまう・・・。インスタントラーメン、ハンバーガー、ポテトチップス、コーラ、ジュース。このような間食を塾や夕食の前後に食べている子供は多いはずです。最近、このような家庭が確実に増えています。
●"ご飯のおかず"と"酒の肴" 、味の逆転
一方"酒の肴"の味付けはどうなっているのでしょう。
会社帰りに居酒屋へ立ち寄ったお父さんは、家庭の薄味を補うように、これ幸いと、濃い味付けの料理を何品も注文してしまいます。
そうすると、日本酒でなく、チューハイやビールが欲しくなります。
チューハイやビールのようにジョッキで飲む冷たいお酒は、口中に残る味を洗う働きが大きいことから、エスニックや揚げ物などのような、脂濃くて味の濃い料理と相性が良いのです。
高蛋白、低脂肪の健康的な肴である、お刺身、豆腐、焼き魚、煮物などの料理を注文すれば、そんな薄味の和食を美味しく活かす日本酒が飲みたくなるのだけれど・・・。
"ご飯のおかず"は薄味となり、居酒屋で注文する"酒の肴"は濃い味になって、本来の相性の良い味付けが逆転しているのです。
せっかく家庭の料理の塩分を薄くしたのに、子供はスナック菓子で、お父さんは居酒屋の肴で、塩分とカロリーを摂り過ぎてしまっているのです。
朝夕の食事で、しっかりと味付けされたおかずに、腹持ちのよいご飯をおかわりして食べることで、間食をしないようにすることのほうが栄養のバランスは良いはずです。
"ご飯のおかず"と"酒の肴"の味の逆転が、ご飯と日本酒の消費を、言い換えると、米の消費を抑える原因の一つとなっているというのは考え過ぎでしょうか。
農業者年金広報誌「のうねん」172号(2000/11)掲載
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