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野菜の緑色は、クロロフィル(葉緑素)という色素によるものですが、長時間加熱を続けると、分子内のマグネシウムがはずれて色があせ、褐色のフェオフィチンというものになります。この変化は生野菜に含まれる酸化酵素(オキシターゼ)によって促進されます。
野菜をあらかじめ沸騰した湯の中へ入れるのは、少しでも加熱を短時間ですませるためです。
水から入れると、温度が高まっていく間に酸化酵素が働いて褐変がすすみますが、熱湯の中に入れると高温のために酸化酵素の作用が抑えられ、少しでも褐変を遅らせることができるからです。
つぎに、たっぷりの湯(野菜の5倍以上)を用意するのは、入れたときの湯の温度の低下を防ぐためです。100度Cに沸騰した湯でも、量が少ないと、材料を入れたとたん50度C以下にまで下がってしまうことがあります。それが再び沸騰するまでの間に、酵素作用や、野菜から溶け出した有機酸の影響で色は悪くなり、組織がやわらかくなって、歯ざわりも低下します。
ゆで汁が少ないと、溶け出した酸の濃度も高くなり、好ましくありません。このため、少なくとも5倍以上の水を用意するようにします。
また、青野菜はふたを取ったままでゆでるのがよいといわれるのは、野菜自体に含まれているキ酸、酢酸、シュウ酸などの有機酸を少しでも空中へ揮発させて色をきれいに仕上げるのが目的だといわれています。
青野菜をゆでるときに塩をひとつまみ入れるのは色をきれいにするためです。
野菜の調理のポイントは、ほとんど色と歯切れのよさにあるといえますが、塩をひとつまみ(約1〜2%)入れておきますと、クロロフィルの分子の一部分が、食塩の成分であるナトリウムイオンと部分的に置き換えられて、安定なかたちになると同時に、酸化酵素の作用を多少とも抑える効果が期待できます。しかし、食塩は少量なので効果には限度があります。
ゆでてから水洗いするという食品は、ほとんどの場合色や味をよくし、おいしく食べられるようにすることを目的に、冷水で洗います。
青菜は主として緑の色を美しく保つのが目的で、長く加熱が続くと色があせてくる葉緑素(クロロフィル)の変化を、冷水で洗うことによって止めようとするものです。ゆでた後そのままおくと余熱で色があせてきますので、この場合の水洗いは冷却による色止めが主目的です。
一方、冷却と同時にアク抜きも行われ、風味がよくなります。青菜をあまり長く洗っていると色や味はよくなっても、水に溶けやすいビタミンCなどの損失が大きいので注意しなければなりません。アクが抜けると いうことは、水に溶けやすいビタミンや一部の無機質も当然溶け出すことを意味するので吸水やアク抜きなど浸漬の目的を達した後は、あまりいつまでも漬けておかない方がよいでしょう。
(『「こつ」の科学』・杉田浩一)
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